蒸気動力技術の歴史的発展に関する要素技術的視点からの分析

Salomon de Causの蒸気噴水装置からWattの複動機関への技術的発展の構造を、要素技術的視点から考察すると下記のようになる。

表1 蒸気動力技術の歴史的発展に関する要素技術的視点からの分析
— Salomon de Causの蒸気噴水装置からWattの複動機関への技術的発展の構造 —
Salmon de Caus, Thomas Savery, Thomas Newcomen, James Watt

 

Salomon de Causの蒸気噴水装置からWattの複動機関(Double Action Engin)に至るsteam engineに関連した技術の発達過程を、水蒸気という作業媒体に関わる要素技術的視点から分析すると上図にまとめたように、水蒸気の発生、利用、復水という相異なる三つの「機能」要素に対応する構造的モジュールが、「ボイラー部」「シリンダー=ピストン装置」「分離凝縮器」という三つのモジュールとして次第に独立・分化していくプロセス、および、シリンダー=ピストン装置を媒介として単なる揚水装置から動力機へと次第に転化していくプロセスとして理解することができる。
三つのモジュールへの相対的分化は、熱効率の向上に必要とされる技術的進化であった。

 
1.Salomon de CausからSavery Engine への技術発展
「水蒸気の発生、利用、復水の3要素の完全一体型装置」としてのSalomon de Causの噴水装置

Salomon de Causの噴水装置では、水蒸気の「発生」、「利用」、「復水」という3つの作業が同一の容器でおこなわれている。すなわち,下記の3つの作業が同一容器内で行われている。

  1. 容器を加熱して容器内に水蒸気を発生させること
  2. 容器内の空気を水蒸気の圧力によって排除してから、容器内の水蒸気を冷却して水に戻すことで容器内の圧力を急速に低下させ、大気圧の力で容器内に水を汲み上げること
  3. 容器内に水蒸気を強制的に注入し、その水蒸気の圧力によって水を上に吹き上げさせること


「水蒸気の発生部」(ボイラー部)と「水蒸気の利用部+復水部一体型装置」の分離としての、Savery Engine

 
図1 Causの蒸気噴水装置
図2 Savery Engine

 

[図1の出典]Thurston(1878) A History of the Growth of the Steam-Engine,p.15.
[図2の出典]Lardner(1840) The steam engine,fig.9

 
 

2.Savery EngineからNewcomen Engineへの技術発展

「水蒸気の利用部+復水部一体型装置」として、水蒸気や水を入れるための容器から、シリンダー=ピストン装置への技術進化。こうした技術進化により、熱エネルギーから動力を取り出すことが原理的には可能になった。
  しかし往復運動しているピストンの上昇行程では動力を取り出すことができず、下降工程でしか動力を取り出せない単動機関であったから、はずみ車を用いても出力変動のない動力を確保することができず、既存の動力技術である動力水車に取って代わって主流の動力機となることはできなかった。
 また、水蒸気が入った容器の表面に水をかけ容器を冷却することで間接的に水蒸気を冷却させて復水させる「表面復水法」から、図3にも示されているようにシリンダー内部に水を噴出させて水蒸気を直接的に冷却させて復水させる「混合復水法」への復水プロセスの技術進化により、復水プロセスで失われる熱エネルギーを減少させることができ、熱効率を向上させることができた。
 
図3  Newcomen Engine(1705)

 

[図3の出典]Thurston(1878) A History of the Growth of the Steam-Engine,p.59.

3.Newcomen Engine からWattの Single Action Engine(単動機関)への技術発展

「水蒸気の利用部+復水部一体型装置」(シリンダー=ピストン(部で復水作業も行わせる装置)から、「水蒸気の利用部」(シリンダー=ピストン部)+「復水部」(分離凝縮器)への分離という技術進歩がなされた。すなわち、シリンダー=ピストン部で復水作業を行わせるのではなく、シリンダー=ピストン部とは別の場所で復水作業を行わせる方式にすることで、シリンダー=ピストン部の温度をあまり変化させることなく、復水作業ができるようになった。このように、復水作業をシリンダー=ピストン部とは別の場所、すなわち、分離凝縮器(separate condenser)でおこなわせることによて、熱効率のさらなる向上が可能となった。
 

4.Wattの Single Action Engine(単動機関) からDouble Action Engine(複動機関)への技術発展

WattのSingle Action Engine(単動機関)以前のマシンはどれも、外部に動力を直接的に取り出すことができないか、外部の作業機を動作させることが困難であった。そのため蒸気機関の主たる作業用途は、揚水作業用マシンとしてのものであった。これに対してWattは、平行四辺形装置、惑星歯車装置、遠心振り子式調速機などのモジュールの発明によりsteam engineの複動化という技術進化を実現することで、回転運動を動力として取り出せるようになった。これにより、揚水作業だけでなく、それまで動力水車が担っていた様々な作業をこなすことが技術的に可能となった。
 
図4 Wattの Single Action Engine(1774)
図5 Wattの Double Action Engine(1781)

 

[図4の出典]Thurston(1878) A History of the Growth of the Steam-Engine,p.98.
[図5の出典]Thurston(1878) A History of the Growth of the Steam-Engine,p.104.

 
 

[参考文献]

  1. Lardner, Dionysius(1840) The steam engine familiarly explained and illustrated; with an historical sketch of its invention and progressive improvement; its applications to navigation and railways, Seventh Edition, Taylor and Walton,London.,535pp.
    https://books.google.co.jp/books?id=iuoDAAAAQAAJ

  2. Thurston, Robert .H. (1878) A History of the Growth of the Steam-Engine.,D.Appleton Company, New York
    http://books.google.co.jp/books?id=VDgOAAAAYAAJ