自動車電話

[以下は、ChatGPTの回答を基に、修正・加筆した文章および参考資料リストである]

 1946年に米国のAT&Tは、公衆電話網に接続する自動車電話サービスをミズーリ州セントルイスで開始した。端末は、アンテナや真空管利用の無線機を自動車に設置し、車載電源から電力の供給を受ける車載専用型であった。また、発信・着信の接続には電話交換手の取り次ぎが必要であった。1956年には、スウェーデンで自動交換式の商用自動車電話サービスが提供開始されたが、車載電話機一式の重量は約40kgと重かった。
 初期の方式では、一つの強力な基地局が広い地域を受け持ち、その地域全体で少数の無線チャネルを共用していたため、サービス地域内での同時通話可能数は限られていた。この問題を解決したのがセルラー方式である。サービス地域を多数の「セル」に分け、離れたセルで同じ周波数を繰り返し利用するとともに、自動車の移動に応じて接続先の基地局を切り替えることで、サービス地域内での周波数の利用効率、同時通話可能数、サービス加入契約者数を高めた。
 1979年に日本電信電話公社(略称電電公社、現NTT)は、セルラー方式による世界初の商用自動車電話サービスを提供開始した。端末は車載専用で、利用料金も高額だったため、当初は企業、官公庁、報道機関などの業務利用が中心だった。当初は、サービス地域は東京から順次拡大され、1984年には全国主要地域で利用可能となった。1980年代には、世界各国でセルラー方式の自動車電話網が整備された。一方、半導体や電池の進歩によって端末の小型化も進んだ。日本ではNTTが1985年に、車外へ持ち出しても利用できる車載・携帯兼用型自動車電話「ショルダーホン100型」(約3kg)の提供を開始した。

 
参考資料
  1. 移動電話・セルラー産業の通史
    1. Garcia-Swartz, Daniel D. and Martin Campbell-Kelly(2022)Cellular: An Economic and Business History of the International Mobile-Phone Industry, MIT Press.MIT Pressオープンアクセス版
    2. https://direct.mit.edu/books/oa-monograph/5457/CellularAn-Economic-and-Business-History-of-the)

      米国、欧州、日本におけるセルラー方式の開発と商用化を比較した学術的通史。特に第3章“The First Cellular Systems: Japan, Europe, and the United States”が、1979年の日本、NMT、AMPSの比較に有用。[第3章](https://direct.mit.edu/books/oa-monograph/5457/chapter/3969765/The-First-Cellular-Systems-Japan-Europe-and-the)
       
    3. Farley, Tom(2005)“Mobile Telephone History,” *Telektronikk*, Vol.101, No.3/4, pp.22–34.
      1946年のMTSからアナログセルラー、デジタル携帯電話までを扱った概説論文。AT&TとSouthwestern Bellの関係、初期移動電話のチャネル不足、各国方式の成立を確認できる。
       
     
  2. 1946年の米国MTS
    1. IEEE History Center, “The Foundations of Mobile and Cellular Telephony,” Engineering and Technology History Wiki.
      https://ethw.org/The_Foundations_of_Mobile_and_Cellular_Telephony

      1946年6月17日にSouthwestern Bellがセントルイスでサービスを開始したこと、Bell LabsとWestern Electricの関与、真空管式車載装置、電話交換手による接続、少数チャネルによる収容制約を確認できる。装置は約80ポンド(約36kg)で、都市全体で同時に成立させられる通話が最大3件程度だったと説明されている。
       
    2. Ericsson History, “First Networks.”
    3. https://www.ericsson.com/en/about-us/history/changing-the-world/small-steps-great-advances/first-networks

      AT&TとSouthwestern Bellが1946年6月17日にMTSを開始したこと、当初6チャネルだったものの干渉問題から3チャネルに減らされたこと、接続が手動式だったことを確認できる。
       
    4. Ericsson, “Breakthrough for Mobile Telephony.” Ericsson History
    5. https://www.ericsson.com/en/about-us/history/products/mobile-telephony/breakthrough-for-mobile-telephony

      1946年の米国サービスについて、車載電話、大型バッテリー、少数の無線チャネル、装置の大型・高価格といった特徴を概説している。
       
     
  3. 1956年のスウェーデンMTA
    1. Karlsson, Svenolof and Anders Lugn, “The Lauhrén System.” Ericsson History
    2. https://www.ericsson.com/en/about-us/history/changing-the-world/small-steps-great-advances/the-lauhren-system

      スウェーデンの自動交換式MTAが1956年4月25日に商用運用へ入ったこと、電話機が約40kgで、車両には追加バッテリーが必要だったことを確認できる。サービス開始時期、重量、収容能力の根拠として最も直接的な資料。
       
    3. Ericsson, “1956: Mobile Telephony Awakens.” Ericsson History
      https://www.ericsson.com/en/about-us/history/company/timeline-placeholder/timeline-1956-mobile-telephony-awakens

      MTAの端末重量、スーツケース程度の大きさ、約100加入という収容能力を簡潔に確認できる。
       
     
  4. セルラー方式の原理
    1. MacDonald, V. H.(1979)“Advanced Mobile Phone Service: The Cellular Concept,” *The Bell System Technical Journal*, Vol.58, No.1, pp.15–41.
      https://doi.org/10.1002/j.1538-7305.1979.tb02209.x

      セルラー方式の基本原理を説明した代表的な一次技術論文。セルへの地域分割、周波数の反復利用、セル分割による加入者容量の増大、六角形セルモデルなどを論じている。
       
    2. Young, W. R.(1979)“Advanced Mobile Phone Service: Introduction, Background, and Objectives,” *The Bell System Technical Journal*, Vol.58, No.1, pp.1–14.
      https://doi.org/10.1002/j.1538-7305.1979.tb02208.x

      従来型移動電話のチャネル不足と収容能力の限界、AMPS開発の背景、大規模移動電話サービスに求められた条件を説明している。
       
    3. Fluhr, Z. C. and P. T. Porter(1979)“Advanced Mobile Phone Service: Control Architecture,” *The Bell System Technical Journal*, Vol.58, No.1, pp.43–69.
      https://doi.org/10.1002/j.1538-7305.1979.tb02210.x

      基地局、移動電話交換局、移動端末を結ぶAMPSの制御構造を扱っている。基地局切り替えや移動端末の追跡・接続を技術的に確認するための資料。
       
    4. International Telecommunication Union(1995)*Report ITU-R M.742-4: Public Land Mobile Telephone Systems*.[ITU公式PDF]
      https://www.itu.int/dms_pub/itu-r/opb/rep/R-REP-M.742-4-1995-PDF-E.pdf

      公衆陸上移動電話を「公衆交換電話網に接続された無線移動通信システム」と定義し、周波数反復利用、基地局間ハンドオーバー、NMT、AMPS、日本のMCS-L1などを比較している。周波数再利用とハンドオーバーの役割を区別するために特に有用である。
       
     
  5. 1979年の日本の自動車電話
    1. Ito, Sadao and Yasushi Matsuzaka(1978)“800-MHz Band Land Mobile Telephone System—Overall View,” *IEEE Transactions on Vehicular Technology*, Vol.VT-27, No.4, pp.205–211.
      https://ieeexplore.ieee.org/document/1622491/

      商用化直前の電電公社の技術者による一次論文。800MHz帯、セル構成、周波数の反復利用、全自動交換、公衆電話網との接続など、日本の自動車電話方式全体を説明している。
       
    2. Kamata, Terumochi, Masayuki Sakamoto and Kazuo Fukuzumi(1977)“800 MHz Band Mobile Telephone Radio System,” Review of the Electrical Communication Laboratories, Vol.25, Nos.11–12, pp.1157–1171.
      電電公社が開発した自動車電話無線方式について、セル構成、周波数利用、無線チャネル制御、移動機の位置追跡、ハンドオーバーなどを説明した一次技術論文。
       
    3. NTT技術史料館「モバイルネットワークの技術(移動体)」[展示エリア解説]
      https://hct.rd.ntt/area/tech_i.html

      1979年に電電公社が東京で800MHz帯の自動車電話サービスを開始したこと、それが「セルラー方式としては世界初」であったことを確認できる。
       
    4. NTT技術史料館「モバイルネットワークの技術(移動体)―展示パネル情報」
      https://hct.rd.ntt/panel/tech_i.html

      大都市方式、中小都市方式、周波数反復利用、移動機追跡、1984年の全国広域サービス、1988年の大容量方式などを詳しく説明している。
       
    5. 公益社団法人発明協会「戦後日本のイノベーション100選――移動電話(自動車・携帯電話)」選定事例解説
      https://koueki.jiii.or.jp/innovation100/innovation_detail.php?age=stable-growth&eid=00054&page=keii

      1979年の東京23区での開始、1984年までの全国サービスへの拡大、初期車載機の約7kgという重量、ショルダーホンへの発展を確認できます。技術史と事業史を総合した資料
       
    6. NTTドコモ「25周年記念号」『NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル』2018年10月。[過去記事再録]
      https://www.docomo.ne.jp/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol26_e/

      『NTT研究実用化報告』第26巻第7号(1977年)の「自動車電話無線方式」「自動車電話交換方式」「自動車電話方式用移動機」「自動車電話の通話品質」が再録されている。
       
    7. NTTドコモ「無線方式の変遷と技術年表」『NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル』25周年記念号、2018年、pp.4–5。
      https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol26_e/Lvol26_e_009jp.pdf

      1979年の自動車電話、1985年の約3kgのショルダーホン、1987年の携帯電話、1993年のPDCなどを一覧で確認できまる。
       
     
  6. NMT・AMPS
    1. Haug, Thomas(2002)“A Commentary on Standardization Practices: Lessons from the NMT and GSM Mobile Telephone Standards Histories,” *Telecommunications Policy*, Vol.26, Nos.3–4, pp.101–107.
      [書誌情報]https://ideas.repec.org/a/eee/telpol/v26yi3-4p101-107.html

      NMTがデンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの協力によって標準化された過程を論じている。NMTを単に「欧州の方式」とせず、「北欧諸国が共同開発した方式」と表現する根拠になる。
       
    2. Ericsson, “The Launch of NMT.” Ericsson History
      https://www.ericsson.com/en/about-us/history/changing-the-world/the-nordics-take-charge/the-launch-of-nmt

      1981年9月にサウジアラビアで最初のNMT網が運用を開始し、同年10月にスウェーデンでサービスが開始された経過を説明している。
       
    3. Federal Communications Commission(1999)*FCC 99-5*. [FCC公式PDF]
      https://transition.fcc.gov/Bureaus/Common_Carrier/Reports/fcc99005-converted.pdf

      米国における商用セルラーサービスが1983年に始まったことを確認できるFCC資料。AMPSの技術そのものについては、前掲のYoung、MacDonald、ITU-R M.742-4の方が詳しい。
       
     
  7. 自動車電話端末とショルダーホン
    1. NTTドコモ歴史展示スクエア「自動車電話」[展示資料]
      https://history-s.nttdocomo.co.jp/list_car.html

      1979年12月に800MHz帯のアナログ大都市セルラー方式が開始されたこと、当初の端末構成などを確認できる。
       
    2. NTTドコモ歴史展示スクエア「ショルダーホン(車外兼用型自動車電話)」[展示資料]
      https://history-s.nttdocomo.co.jp/list_shoulder.html

      1985年9月に100型が完成したこと、車載・携帯兼用型で、自動車から離れて利用できたことを確認できる。
       
    3. 国立科学博物館・産業技術史資料情報センター「ショルダーホン〈100型〉(NTT)TZ-802型自動車無線電話用移動無線機」産業技術史資料データベース
      https://sts.kahaku.go.jp/sts/detail.php?c=&city=&id=&no=900890141051&org=&p=1374&pref=&word=&y1=&y2=

      重量約3kg、アンテナ・電池・送受話機能の内蔵、車外利用の方法を確認できる博物館資料。
       
    4. NTT「NTTグループの歩み」NTT公式沿革
      https://group.ntt/jp/group/history

      1985年の電電公社からNTTへの改組、ショルダーホン100型の重量と車外兼用型としての位置づけ、1987年の携帯電話サービス開始を確認できる。
       
     
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携帯電話加入数の歴史的推移


[上記図のPDF]携帯電話加入数の歴史的推移1987-2026
[数値の出典]
1988年3月末 『情報通信白書』平成10年板
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h10/html/98wp2-3-1c.html

1989年3月末以降情報通信統計データベース 情報通信関連契約数データ
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/field/tsuushin02.html

 
1988年3月 15
1989年3月 24
1990年3月 49
1991年3月 87
1992年3月 138
1993年3月 171
1994年3月 213
1995年3月 433
1996年3月 1,020
1997年3月 2,088
1998年3月 3,153
1999年3月 4,153
2000年3月 5,114
2001年3月 6,094
2002年3月 6,912
2003年3月 7,566
2004年3月 8,152
2005年3月 8,700
2006年3月 9,179
2007年3月 9,672
2008年3月 10,272
2009年3月 10,749
2010年3月 11,218
2011年3月 11,954
2012年3月 12,820
2013年3月 13,604
2014年3月 14,401
2015年3月 15,270
2016年3月 15,656
2017年3月 16,350
2018年3月 17,107
2019年3月 17,885
2020年3月 18,598
2021年3月 19,545
2022年3月 20,406
2023年3月 21,184
2024年3月 22,316
2025年3月 22,979
2026年3月 23,745
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世帯普及率関連資料

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情報通信関連統計データ

  1. 総務省『情報通信白書』
  2.  
     
  3. 情報通信統計データベース 情報通信関連契約数データ
  4. https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/field/tsuushin02.html

    携帯・PHSの加入契約数の推移(単純合算)(令和8年3月末時点)

    excelcsv
    加入電話及びISDN契約数(令和8年3月末時点)

    excelcsv
    IP電話利用数(令和8年3月末時点)

    excelcsv
    国内専用回線数の推移(令和5年度末時点)

    excelcsv
    無線呼出し(ポケットベル)の加入契約数の推移(平成24年度末まで)

    excel
    ブロードバンドサービス等の契約数の推移(四半期)

    excelcsv

    allow電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ

  5. 総務省「電気通信事業分野における市場検証に関する年次レポート」
  6. https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyousouhyouka/kekka.html

  7. 国際電気通信連合(ITU)ICT-Statistics HomePages
  8. https://www.itu.int/en/ITU-D/Statistics/Pages/stat/default.aspx

      各国別ではなく、世界全体に関するデータを入手する仕方

      1. DataHub画面の「select econoies」欄で、Groupsセレクターから「World」を選択する
      2. デフォルトでは、下記のように、Econoiesの「個別の国名一覧」が表示される。同画面で、Groupsをクリックする。

      3. 下記候補が表示されるので、Worldを選択する。そうすると、世界全体の推計・集計データ(WLD)の推移グラフおよび数値が表示される。
        • High income
          Land Locked Developing Countries (LLDC)
          Least Developed Countries (LDC)
          Low income
          Lower middle income
          Small Island Developing States (SIDS)
          Upper middle income
          World
      4. なお2026/8/21現在では、下記URLからアクセスできる。
      5. 世界統計
        https://datahub.itu.int/data/?e=701

     
  9. 国際電気通信連合 歴史統計 ITU Historical Statistics (1849-1967)
    • 電信[およびテレックス]統計(1849-1967)
    • 電話統計(1885年~1967年)
    • ラジオ放送統計(1908年~1967年)
     
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腕木通信

腕木通信関連の画像

1794-Gentlemans_Magazine_Nov_1794_p992
同雑誌は、GoogleのBook検索(http://books.google.co.jp/)で、Gentleman’s Magazine 1794と入力して検索することでpdf形式で全文ダウンロードできる。
なお同上雑誌の同図は、Holzmann, G.J. Pehrson, B. (1994) The Early History of Data Networks, John Wiley & Sons, p.221や、中野明(2003)『腕木通信』朝日新聞社(朝日選書740),p.225にも収録されている。

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ポケットベル(ポケベル)— 無線呼出しサービス

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電報

 

 電信の商業化・公衆利用は、英国では1830年代末からCookeとWheatstoneによる電信が鉄道でなされ、1840年代には商業的な電信サービスが発展した。米国ではモールスによるWashington–Baltimore線が1844年に開通し、その後急速に商業電信網が形成された。
 電信を利用した公衆電報サービスは、1830年代末から1840年代に欧米で開始され、その後、電信網の整備とともに急速に普及した。電報は、政府・外交・軍事、鉄道運行、新聞報道、株式・商品取引、企業間取引、家族の緊急連絡などに利用され、19世紀後半から20世紀前半にかけて主要な遠距離文字通信手段の一つとなった。
 しかし、こうした「情報を迅速に伝達する」という電報の主要な役割は、20世紀中頃以降、電話が企業や家庭に広く普及し、長距離通話も利用しやすくなるにつれて、電話による音声通信に次第に代替されるようになった。
 さらに、「伝達した情報を記録として残す」という電報のもう一つの役割は、テレックスやFAXなどの通信手段によっても担われるようになり、これらの普及も電報の利用を縮小させる要因となった。

 
■電報のメリット■

電報は、通信手段として下記のようなメリットを有していた。

  1. 郵便と比べて、遠隔地へ文字情報を迅速に伝達できる。
  2. 電話と異なり、相手が電話を所有していなくても、最寄りの電報取扱局まで電信で送信し、そこから配達員などによって相手に届けることができる。
  3. 電話と異なり、相手人が通信時にその場にいなくても届けることができる。電話では、通話を録音する手段がなければ会話そのものを記録として残すことはできず、録音した場合でも文字情報として利用するには文字起こしが必要であった。
  4. 電話と異なり、伝達内容が紙に記載されて受取人に届けられるため、内容を記録として残すことができる。電話では、通話時の音声録音手段がなければ、記録が取ることができなかった。また記録を取っても、文字情報とするためには、文字起こし作業が必要となった。
  5. 文字による記録が残るため、採用通知、商取引上の通知・注文など、内容を正確に伝達し、その記録を保存する必要のある連絡に適していた。
 

電報が19世紀に急速に普及した最も重要な理由の一つは、上記の第一のメリットにあった。手紙などの文書を人、馬車、鉄道、船などによって物理的に輸送する場合とは異なり、電報では、電信局間で文字情報を電気信号として伝送することにより、遠隔地へきわめて迅速に情報を伝えることができた。
 また、上記の第二以下のメリットは、競合する通信手段として電話が普及した後も、電報サービスが利用され続けた要因となった。

■電報のプロセス■

19世紀における電報は、モールス式電信を利用する場合、典型的には下記のような手順で文字情報を伝達するものであった。

  1. 送信者が、電信局へ送信原稿を提出する。
  2. 通信士が、電鍵を操作して、送信原稿の文字情報をモールス符号などの電気信号に変換し、電信によって相手側の電信局へ送信する。
  3. 相手側の電信局で電気信号を受信し、通信士が文字情報として読み取る。
  4. 読み取った文字情報を電報用紙に転記し、紙の文書とする。
  5. その紙の文書を配達員が受取人へ届ける。
 

 電信において、文字情報をキー入力して送信し、受信側で文字を自動的に印字する印刷電信機も19世紀から開発・実用化されていた。House式やHughes式などの印刷電信機は一部の地域や回線で広く利用されたが、19世紀の電信全体をモールス式などに代わって統一する方式とはならず、さまざまな電信方式が併存した。
 20世紀初頭になると、タイプライター型キーボードや5単位符号、スタート・ストップ方式などを採用したテレプリンターが発達し、文字を直接送受信する電信通信が本格的に普及していった。

現在の電子メール・サービスでは、情報がインターネット経由で送信者から受信者に直接に電気信号として自動的に届く。これに対して20世紀前半までの電報サービスは、文字情報の受付、送信、配達にも人手が介在するサービスであった。

 
■日本における電報の役割の歴史的変化■
「文字情報の迅速な伝達」「緊急連絡」用途から「慶弔」用途へ-1973年には慶弔用途が一般用途を上回る発信通数に
「文字情報の迅速な伝達」「緊急連絡」用途としてのスタート

電報は、政府・外交・軍事、鉄道運行、新聞報道、株式取引、企業間取引、家族の死亡・危篤等を知らせる緊急連絡などに利用され、19世紀後半から20世紀前半にかけて主要な遠距離文字通信手段の一つとなった。
 20世紀前半の日本では、電話の普及はまだ一般的ではなかった。そうした時代において電報は、重要な通信手段であった。1923年の関東大震災時には、震災5日後に無料被災電報の受付が開始された。この場合には自身の無事を知らせる手段として役に立った。

 
「慶弔」用途への広がり

 1934年には年賀電報が、1936年には定められた例文だけでなく任意の文も使用できる慶弔電報制度が、さらに1956年にはクリスマス電報も誕生した。

 用途別で見ると、慶弔用途は1962年度には11.4%、1963年度には14.1%と低かったが、急激に増加し続け、1973年度には57.3%と5割を超えた。その後も慶弔用途の割合は増加し続け、1984年度には8割を、1987年度には9割を超えた。その後は21世紀初頭まで80%後半から9割前半で増減を繰り返したが、2004年度以降は9割台をキープし続けている。
 また発信通数では、一般用途の電報の発信通数は、1963年度の8,130万通をピークに急激な減少を続け、1974年度には1,783万通と2,000万台を割った。その後も減少を続け、1984年度には765万通を1,000万台を割り、1987年度には300万台になった。その後は2003年まで増減を繰り返したが、2004年度から再び減少を続け、2024年度には14万通まで減少した。
 慶弔用途の電報は、一般用途と異なり、1975年度の2,905万通まで増加を続けた。一時的に減少するも、1978年度から再び増加傾向に転換し、1991年度には4,289万通まで増加した。それをピークに減少し続け、2000年度には3,000万台を、2004年度には2,000万台を、2013年度には1,000万台を割った。2024年度には282万通にまで減少した。
「素早い連絡手段」、「緊急連絡手段」という電報の主要な役割は、20世紀に電話が企業や家庭へ広く普及するにつれて、電話による音声通信によって次第に代替されるようになった。

「電報は,近年,加入電話の普及,ファクシミリ通信等の多様な通信手段の発展に伴い,その緊急通信手段としての性格が変容してきており,慶弔用としての利用は年々増加しているものの,利用通数は大幅に減少している。電話等の普及により,電報は,緊急通信手段という意味において,通信メディアとしては衰退しつつあると考えられる」『通信白書』昭和61年版、pp.126-127
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/s61/pdf/S61_part2.pdf
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/s61/html/s61a02020300.html
 
■日本国内の発信通数の歴史的推移1871-1956[単位:万通]■
 
[上記画像のPDF] 
[数値の出典]日本電信電話公社『電信電話年鑑』昭和31年度、p.638
[数値のエクセルファイル]日本国内電報 有料発信通数の歴史的推移1871-1956
 
日本国内の電報発信通数は、1963年度(昭和38年度)には9,461万通に達した。これは国民一人当たり年間一通の発信ということになる。しかし1963年度をピークに減少を続けたが、1973~1996年の間は4.000万台をキープし続けた。しかし1997年から減少を続け、2001年度には3,000万台を、2006年度には2,000万台を、2013年度には1,000万台を割った。2024年度には282万通にまで減少した。
 
[上記画像のPDF] 
[数値の出典]
1955,1965、1975、1985-2024NTT西日本「電報の発信通数」
https://www.ntt-west.co.jp/info/databook/pdf/076-077_hasshintsusu.pdf
1960経済企画庁『昭和36年 年次経済報告』
https://www5.cao.go.jp/keizai3/keizaiwp/wp-je61/wp-je61-020803.html
1961-1972 『通信白書 昭和48年版』p.145の第3-2-7図「電報通数の推移」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/s48/pdf/S48_09_C2E83C9F4_C2E82BECF.pdf
1962-1974 『通信白書 昭和50年版』p.105の第2-2-2図「電報通数の推移」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/s50/pdf/index.html
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/s50/pdf/S50_06_C2E82C9F4B3C6CFC0C2E82BECFC2-2.pdf
1973-1982 『情報通信白書 昭和58年版』p.122の第2-2-1図「電報通数の推移」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/s58/html/s58a02020201.html
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/s58/pdf/S58_07_C2E82C9F4-C2E82BECF.pdf
1979-1984 『情報通信白書 昭和60年版』p.183の資料2-29「電報通数の推移」(単位:千通)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/s60/pdf/index.html
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/s60/pdf/S60_data.pdf
[数値のエクセルファイル]日本国内電報-発信通数の歴史的推移1955-2024-sub
 

[上記画像のPDF] 
[数値の出典]同上
 
■日本における電報通数の関連資料■
  1. NTT西日本「電報の発信通数」
    https://www.ntt-west.co.jp/info/databook/pdf/076-077_hasshintsusu.pdf

  2. 文化遺産オンライン「郵政博物館資料 電報取扱通数と電信線延長増加指数累年比較 明治4年-大正13年」
    https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/257220
    https://online.bunka.go.jp/heritage/12238/_173480/12238_173480121221155557363_900.jpg

    電報は年度末の数値で、明治4年(1871)、明治15年(1882)、明治20年(1887)、明治25年(1892)、明治30年(1897)、明治35年(1902)、明治40年(1907)、大正元年(1912)、大正5年(1916)、大正10年(1921)、大正11年(1922)、大正12年(1923)、大正13年(1924)の電報取扱数、および、明治4年度末を1とした指数推移グラフが記載されている。
    指数推移グラフは明瞭であるが、取扱数の数値は字がかすれていて読みにくい。画像を縦横10倍にするとともに、明るさを調整して判読した結果としては、明治4年度末の電報取扱数は19,448通と推定される。以後、読み取り間違いがあるかもしれないが、2,994,109、2,821,817、5,491,181、28,415,679、55,789,910、127,341,480、165,316,901、218,358,998、78,848,528 と推定される。
    なお電報取扱数なので、発信数と着信数の合計数と思われるが、日本電信電話公社『電信電話年鑑』昭和31年度、p.638の日本国内の数値とはかなり異なる数値となっている個所がある。対外電報の数値が含まれている可能性がある。
     
  3. 逓信省電務局『電務年鑑』昭和13年度版、pp.303-304
    https://www.google.co.jp/books/edition/_/loCYVXH1yuoC

  4. 逓信省電務局『電務年鑑』昭和14年度版、p.311

    https://www.google.co.jp/books/edition/電務年鑑/My0iym1j3UIC

  5. 逓信省電務局『電務年鑑』昭和16年度版、p.365
    https://books.google.co.jp/books?id=Fa7xSGlIdAgC

  6. 逓信省電務局『電務年鑑』昭和20年度版
    https://www.google.co.jp/books/edition/_/5xRBnBN0FEoC

  7. 日本電信電話公社『電信電話年鑑』昭和28年度、p.599
    https://www.google.co.jp/books/edition/_/Y119o7DIfOkC

  8. 日本電信電話公社『電信電話年鑑』1954
    https://www.google.co.jp/books/edition/_/gS7TTosZJ2sC

  9. 日本電信電話公社『電信電話年鑑』昭和30年度
    https://www.google.co.jp/books/edition/_/hum-7EGEuZsC

  10. 日本電信電話公社『電信電話年鑑』昭和31年度、p.638
    https://www.google.co.jp/books/edition/_/QiXYCtYDgqcC?

 
■日本における電報の歴史関連WEBページ■
 
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マテリアルハンドリング

“Historical Timeline for Material Handling”
https://www.mhisolutions-digital.com/mhiq/0425_volume_13__issue_4/MobilePagedArticle.action?articleId=2083560#articleId2083560

DoverMEI “The History of Material Handling Equipment” January 13, 2022
https://dovermei.com/the-history-of-material-handling-equipment/

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ダウンロード可能なJames Watt関連資料(編集中-暫定版)

James Wattの伝記・書簡集

  1. Arago,François (1839) Life of James Watt
    https://www.google.co.jp/books/edition/Life_of_James_Watt/JYZIAAAAMAAJ

  2. Muirhead, James P. (eds.) (1846) Correspondence of the late James Watt on His Discovery of the Theory of the Composition of Water with a letter from his son
    https://www.google.co.jp/books/edition/Correspondence_on_His_Discovery_of_the_T/gd1jnMKbMGEC

  3. Muirhead, James P. (1854) The Origin and Progress of the Mechanical Inventions of James Watt: Illustrated by His Correspondence and the Specifications of His Patents. Extracts from correspondence, Vol.1
    https://www.google.co.jp/books/edition/The_Origin_and_Progress_of_the_Mechanica/z5c5AAAAcAAJ

  4. Muirhead, James P. (1854) The Origin and Progress of the Mechanical Inventions of James Watt: Illustrated by His Correspondence and the Specifications of His Patents. Extracts from correspondence, Vol.2
    https://www.google.co.jp/books/edition/The_Origin_and_Progress_of_the_Mechanica/vlspAAAAYAAJ

  5. Muirhead, James P. (1854) The Origin and Progress of the Mechanical Inventions of James Watt: Illustrated by His Correspondence and the Specifications of His Patents. Extracts from correspondence, Vol.3
    https://www.google.co.jp/books/edition/The_Origin_and_Progress_of_the_Mechanica/21zVAAAAMAAJ

  6. Muirhead, James P. (1858) The Life of James Watt
    https://www.google.co.jp/books/edition/The_Life_of_James_Watt/_b8GAAAAYAAJ

  7. Barr, Archibald (1889)James Watt and the Application of Science to the Mechanical Arts : An Inaugural Address Delivered in the University of Glasgow
    https://www.google.co.jp/books/edition/James_Watt_and_the_Application_of_Scienc/Iik1AAAAMAAJ

James Wattを含む蒸気機関関連資料

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科学研究費・軍事研究開発費視点から見たdual use

軍事研究開発費に当てられる防衛省の財政資源・人的資源の有限性に対して適切に対処し、軍事力に関する相対的競争優位をCost Leadership, Differentiation, FocusといったPorterの競争戦略視点から確保・強化する方法に関して、「規模の経済・不経済」や「範囲の経済・不経済」に対する経営学的対処という視点から分析を行うことが有益である。

本稿では、軍事研究開発費に当てられる防衛省の財政資源・人的資源の有限性に関する防衛省側の認識、および、そうした有限性に対するdual use論的対処に関する認識をまずは見ていくことにしよう。なお下記では、「軍事技術開発・軍事製品開発に際して民生技術を活用する」スピンオン、および、「民生技術開発・民生製品開発に際して軍事技術を活用する」スピンオフといった事後的=結果的dual useを主として取り上げる。

『防衛白書』等の防衛省関連資料における研究開発・製品開発に関わるdual use論的主張

  1. 防衛技術シンポジウム2012 創立60周年記念 特別講演Ⅱ「将来技術との融合を目指して!~新たな時代を拓く防衛技術の在り方を多面的に考える~」
    https://www.mod.go.jp/atla/research/dts2012/toku2.pdf
    佐々木達郎(当時、前技術研究本部長、金沢工業大学教授)の発言「民間企業との関連という点では、確かに戦後の防衛庁技術研究本部では先ほどお話ししましたように、工廠等もありませんし、自らつくるということはできませんので、試作品の段階から、もちろん量産もそうですが、民間の技術力に依存してまいりました。特に自衛隊固有の、例えば火器弾薬とか戦闘車両、あるいは戦闘機等に関しましては、どうしても防衛省独自にこれを保持しなければいけない技術ですが、一般の装備品、すなわち通信機材ですとか普通の車両だとか、その他もろもろに関しましては、これは民生技術、我が国の優れた民生技術を活用するというのをベースにずっとやってきました。<」pp.20-21

    [引用者コメント]軍事的優越性の確保に際して、他国に対するDifferentiationを持続的=長期的に確保するためには、「火器弾薬とか戦闘車両、あるいは戦闘機等」といった主要な「正面装備」(戦闘に直接使用される兵器・装備)に関する技術開発力・製品開発力を防衛省自らが有することが必要かつ有用である。敵国に対する軍事的卓越性(敵国に対するDifferentiation的意味での軍事的競争優位性)の持続的=長期的確保を左右する主要な正面装備に関する技術開発力・製品開発力に関して、自前主義を捨て内部的開発能力を育てず、民間企業あるいは他国(仮にそれが現時点における友好国であったとしても)に全面的に依存することは適切ではない。主要な正面装備に関しては、Differentiationの持続的=長期的確保のためにも「秘密特許」などに端的に示されているようなそれらに関する機微性・秘匿性確保に対応したclosed戦略に基づく開発力育成が求められる。
     その一方で軍事力の全体的大きさが「軍事力の質」✕「軍事力の量」という形で規定されるとすれば、主要な正面装備に関するClosed戦略に基づく「質」的優位性の確保とともに、一般の装備品(通常の運搬・移動用の車両、通常の通信機材)に関するopen戦略に基づく量的優位性の確保が重要となる。すなわち、一般の装備品に関しては、軍事目的視点からの一定のカスタマイズや追加の技術開発・製品開発が必要であるにしても、基本的には民生製品の機能・性能で軍事作戦遂行が可能であるから、既成の民生技術・民生製品を有効活用することが可能である。
     

    佐々木達郎(当時、前技術研究本部長、金沢工業大学教授)の発言「いずれにしましても尐ない経費でここまでやってこられたというのは、国内の民間企業が持つ優れた技術を活かした分野で、その技術が適用できる装備品に対して、技術の上澄みだけ国が経費を払ってきて、安い経費で何とか装備品をつくっていただいたという面があるんじゃないかと思います。これからもぜひ新しい技術、それと先ほど僕申し上げましたが、大学の先生とか、それから独立行政法人の方々とか、あるいは中小企業の持っている技術を日本の財産として有効に使わせていただいて、短期間にその時代に合った装備品をつくらせていただくような環境、もちろんこれまで努力いただいた防衛産業の方々にはリーダーになってもらわなきゃいけないとは思いますが、そんな形で進めさせていただければと思います。」p.21

    [引用者コメント]軍事研究開発費に当てられる防衛省の財政資源・人的資源の有限性に対応するための方法の一つが、本引用にあるように、民生技術が活用できる装備品(兵器・装備)に関しては、民生技術・民生製品を活用し、軍事目的に対応したカスタマイズに関する技術開発・製品開発に関するコストのみを軍事当局(防衛省)側が負担するという「スピンオン」型dual use開発方式である。
     

    堤厚博(技術研究本部研究開発評価官)の発言「防衛装備品等の開発や生産というのは、欧米の軍事先進国を追随するキャッチアップ型の時代から、国情や防衛環境の変化とか、技術動向を踏まえて戦略的に進めていくフロントランナー型の時代へ変遷しつつあるように感じております。これを効果的に推進するためには、技術研究本部と防衛関連企業に加えて、第3のステークホルダーとして大学とか独立行政法人などの参画によって、新たな可能性を追求していくということが考えられます。つまり、大学とか独立行政法人を含めて国内の技術基盤を最大限に活用していくということが得策であると。日本のものづくりでも、大企業と中小企業とが上手に連携することで日本ブランドをつくり上げているというのが現状だと思います。」p.24

    [引用者コメント]軍事力増大は、「欧米の軍事先進国を追随するキャッチアップ型」の時代では、follower戦略に基づく「模倣・改良」が基本的に有用であった。
    しかしながら他国に先んじて新たな兵器・装備を研究・開発することが必要な「フロントランナー型」の時代では、必要な研究開発を自国において軍事当局(防衛省)のリーダーシップのもとで遂行することがどうしても必要となる。この場合にネックとなるのが、防衛省側の財政資源・人的資源の相対的有限性という問題である。
     財政資源の相対的有限性に関しては、2024年度に軍事研究開発費が科学研究費を上回るようになるなどの対応が進んでいる。人的資源の相対的有限性に対する対応策の一つが、安全保障技術研究推進制度(防衛省ファンディング)などを通じて、軍事研究開発費の一部を大学・民生企業などに回すことである。
     

    佐々木達郎(当時、前技術研究本部長、金沢工業大学教授)の発言「今、例えば隣の韓国にしろ、中国にしろ、軍事費、もちろん研究開発費というのはべらぼうに増やしていますし、またその要員というのが大変多い、日本の何倍かの要員を構えるような状況に至っています。日本が今のままいって、本当に反省しなければいいんですが。ただ、先ほど秋元先生も最後におっしゃいましたが、中小企業だとか大学とか独法、そういった持てる技術を、この予算が削減され定員が削減される中、そういった技術を活用させていただけるような環境をつくっていただいて、ぜひもっと効率的で優秀な装備品ができるような、そんな努力をこれからもしていただければと思います。お願いです、よろしくお願いします。」pp.46-47/div>

     
  2. 『防衛白書』平成26(2014)年版
    http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2014/html/n4141000.html

    財政的、人的な資源が限られる中、先進的な研究を中長期的な視点に基づいて体系的に行うため、新たな脅威に対応し、安全保障上戦略的に重要な分野において技術的優位性を確保できるよう、最新の科学技術動向、戦闘様相の変化、国際共同研究開発の可能性、主要装備品相互の効果的な統合運用の可能性などを勘案し、主要な装備品ごとに中長期的な研究開発の方向性を定める将来装備ビジョンを策定し、効果的に人的、財政的資源を投入する。

    近年、防衛技術と民生技術との間でデュアルユース化、ボーダーレス化が進展している中、産学官の力を集結させて、安全保障分野において有効に活用し得るよう、科学技術に関する動向を平素から把握し、独立行政法人や大学などの研究機関との連携の充実を促進することで、防衛にも応用可能な民生技術の積極的な活用(スピンオン)に努めるとともに、民生分野への防衛技術の展開(スピンオフ)も図り、防衛技術と民生技術の相乗効果による技術の進展を促す。また、先進諸国においては、防衛装備品の高性能化を実現しつつ、費用の高騰に対応するため、国際共同開発などに参加することが主流となっていることから、わが国としても国際共同開発などへの参加も念頭に置きつつ、防衛装備移転三原則のもとで、装備・技術分野における諸外国との協力を進めていく。産学官連携の強化、国際的な装備・技術協力の推進に際しては、防衛技術、デュアルユース技術の機微性・戦略性を適切に評価し、わが国の安全保障上の観点などから意図しない武器転用のリスクを回避するなど、技術管理機能の強化を図る。

     

  3. 防衛省(20196)『防衛技術戦略~技術的優越の確保と優れた防衛装備品の創製を目指して~』
    技術のボーダレス化 、デュアルユース化の進展
    近年、防衛技術と民生技術との間でボーダレス化、デュアルユース化が進展し、両者の相乗効果によるイノベーションの創出が期待されており、既存の防衛産業が有する技術のみならず、我が国が保有する幅広い分野の技術にも目を向け、これらを進展させることにも留意しなければ、真に優れた装備品 の創製にはつながらなくなってきてい る。「第5期 科学技術基本計画」 において 「科学技術には多義性があり、ある目的のために研究開発した成果が他の目的に活用できることを踏まえ (中略) 適切に成果の活用を図っていくことが重要」とされているとおり、科学技術政策の観点からも、防衛と民生の双方の技術連携を促進するため産学官の力を結集し、防衛にも応用可能な民生技術の積極的な活用(スピンオン)を行うとともに、民生分野への防衛技術の展開(スピンオフ)を図り、我が国の技術力を進展させることが重要である。このため、安全保障と民生分野の双方に活用可能な 先進的な 技術を創出し、技術力の強化を図るとともに、関係府省・産学と連携し、我が国が有する様々な技術力を効果的・効率的に活用し、真に優れた装備品の創製につなげることが一層不可欠となってきている。
     

  4. 防衛省「次期戦闘機の調達について」2020年11月14日
    https://www.gyoukaku.go.jp/review/aki/R02/img/s2.pdf

    下記引用図のように、「戦闘機はその時代の最先端の技術を結集し、多くの企業・人員が関わって開発」するというスピンオフの追求、および、「戦闘機開発によって生み出された技術は、機微情報の保全を前提に、我が国の安全保障のみならず、技術波及効果を通じ、我が国の他の産業の技術力向上に寄与」するスピンオフ効果の強調がなされている。

     

  5. 『令和6年版 防衛白書』
    「わが国における防衛省の研究開発費は、米国などと比べれば低いものの、近年その重要性から大幅に伸ばしているところである。一方、民生用の技術と安全保障用の技術の区別は、実際には極めて困難となっているなか、わが国の官民における科学技術の研究開発の成果を、装備品の研究開発などに積極的に活用していくことで、国家としての技術的優越の確保に戦略的に取り組んでいくことが重要である。そのため、わが国として重視すべき技術分野について国内における研究開発をさらに推進し、技術基盤を育成・強化する必要がある。

    また、装備品調達や国際共同開発などの防衛装備・技術協力を行うにあたっては、重要な最先端技術などをわが国が保有することにより、主導的な立場を確保することが重要である。また、開発後の調達や装備移転の可能性も踏まえ、費用を抑える観点も重要となる。このため、防衛省における研究開発のみならず、官民一体となって研究開発を推進する必要がある。」
    [引用元]https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2024/html/n410201000.html

     

    民生分野での技術発展は著しく、それに由来する先進技術が、戦闘のあり方を一変できるほどになっており、産業・技術分野における優劣は国家の安全保障に大きな影響を与える状況にある。」
    [引用元]https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2024/html/n140105000.html#s140105

  6. 防衛省WEBページ「安全保障技術研究推進制度(防衛省ファンディング」
    「我が国の高い技術力は、防衛力の基盤であり、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、安全保障に関わる技術の優位性を維持・向上していくことは、将来にわたって、国民の命と平和な暮らしを守るために不可欠です。とりわけ、近年、技術革新により民生技術が急速に進展しており、しかもこれらの先進的な技術は、これまでの戦い方を一変させる可能性をも秘めていることから、防衛にも応用可能な先進的な民生技術を積極的に活用することが重要であると考えています。
    安全保障技術研究推進制度(競争的研究費制度※)は、こうした状況を踏まえ、防衛分野での将来における研究開発に資することを期待し、先進的な基礎研究を公募するものです。
    ※大学、研究開発法人、民間企業等において、府省等の公募により競争的に獲得される経費のうち、研究に係るもの。従来、競争的資金として整理されてきたものを含む。」
「軍事研究開発費の、科学研究費に対する相対的比率増大」(2024年度に逆転)に関する参考資料
下記グラフに示したように、軍事費の2023年度以降の大幅増にともない、2024年度に防衛省の軍事研究開発費が2,606億円と、科学研究費総額2,429億円を上回った。
とはいえ、日本国において、軍事研究開発費が軍事予算の中で占める割合は2000-2024の25年間平均で2.9%である。また2022年 3.3%、2023年 3.3%、2024年 3.4%とここ3年間は25年間平均を上回っているが、2016-2021の6年間平均は2.3%と、25年間平均を0.6%も下回るものであった。

 
「軍事研究開発費に当てられる防衛省側の財政資源、人的資源の相対的有限性」に関わる参考資料
上記のように、軍事研究開発費は最近二なり大きく増額はされているが、それでも軍事費総額でみるとまだ相対的にかなり小さい。すなわち、軍事研究開発費は、下記グラフに示したように、軍事費全体に占める割合は2018年度以降増加傾向が続いてはいるが、2024年度でも軍事費の3.6%にとどまっている。
 もちろん防衛省と民生企業とを単純に数値比較することは適切ではないが、GAFAをはじめとしたアメリカのハイテク企業が売上高の10数パーセントを研究開発費に回していることに比べると、研究開発費の割合はかなり少ない。Alphabet(Google)の2024会計年度の研究開発費は、同社の10-Kによると、493億26百万ドルにも達する巨額な金額であった。三菱UFJリサーチ&コンサルティングのデータによると、2024年のドル為替の年間平均TTMは151.58円/ドルであるから、円換算した金額は約7兆4768億円に達する巨額な金額である。
Alphabet(Google)はたった一社で日本の軍事費(7兆7249億円)とほぼ同額、すなわち、日本の防衛省の軍事研究開発費(2606億円)の30倍近い金額を研究開発費として支出しているのである。そうしたことから考えると、ITに関わる研究開発力に関して、日本の防衛省がアメリカの民間ハイテク企業に相対的競争劣位であることは確かである。そのため、アメリカの民間ハイテク企業の研究開発力を活用できない日本の防衛省としては、日本の大学・民生企業の研究開発力の活用することで一定の対応をしようとしているのである。

とはいえ、Alphabet(Google)の研究開発費はたった一社で日本の2024年度の科学研究費と軍事研究開発費の合計額5035億円の約15倍に達することから推測すると、なかなか厳しい道であることがわかる。

 
「日本における部門別の研究開発費使用額の歴史的推移」に関わる参考資料
民生企業の研究開発力をスピンオン的に活用することの有用性・必要性という主張の背景には、下記グラフのように、企業の研究開発費使用額が2022年には日本における研究開発費使用額全体の73%と極めて大きな割合を占めていることもある。


[数値の出典]文部科学省 科学技術・学術政策研究所『科学技術指標2024』統計集の表1-1-6
エクセル・データ https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2024/hyoudata/STI2024_1-1-06.xlsx

 
「米国における部門別の研究開発費使用額の歴史的推移」に関わる参考資料
下記グラフに示されているように、前述のことはアメリカにも当てはまる。アメリカでは、GAFA、インテル、マイクロソフトなどのハイテク民生企業を中心として研究開発に巨額の資金を投入し続けていることもあり、2010年代後半以降になり、民間企業の研究開発費使用額が急激に増大し続けている。


[数値の出典]文部科学省 科学技術・学術政策研究所『科学技術指標2024』統計集の表1-1-6
エクセル・データ https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2024/hyoudata/STI2024_1-1-06.xlsx

 
「民間企業における研究開発費の歴史的推移」に関わる参考資料
  1. 売上高に対する営業利益率・研究開発費率に関する日系企業と米国系企業の比較
  2. Googleの売上高・営業利益率・研究開発費率の歴史的推移
  3. Amazonの売上高・営業利益率・研究開発費率の歴史的推移
  4. Facebookの売上高・営業利益率・研究開発費率の歴史的推移
  5. Appleの売上高・営業利益率・研究開発費率の歴史的推移
  6. Twitterの売上高・営業利益率・研究開発費率の歴史的推移
  7. 任天堂の売上高・営業利益率・研究開発費率の歴史的推移
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